君色キャンバス
「…別に。…入れて…」
紗波は、プイと顔を背け、太い木の枝にまたがったまま、祐輝の返事を待つ。
「あぁ、別に良いよ…もしかして、見舞い?良かったのに」
そう言いながら、祐輝は窓の側から退いて、ベッドに座る。
白いシーツに少しシワがよっていた。
病室に入ると、その独特の薬臭い香りに顔をしかめながら、ベッドの側に置かれていたパイプ椅子に腰掛けた。
祐輝の右手の甲から繋がっているチューブを追うと、ベッドの側に立てられた点滴台に吊るされた袋に続いている。
祐輝がベッドの中に入り、笑う。
「まさか、久岡が来てくれるとはな。ま、明日が手術日だし、面会謝絶だけど…退屈でよー。臭いだろ?『再生不良性貧血』とかいう病気の薬の所為だよ」
紗波は濡れた烏羽のような瞳で、祐輝を見つめる。
よほど退屈だったのか、明るく、祐輝は喋り続けた。
「骨髄移植のドナー?とかいうんが見つかって良かった、らしい。俺は何なのか知らねえけどな」
「…うん」
月の光にも負けない、眩しい笑顔に、紗波の心は揺さぶられ続けた。
窓の外で、焦げ茶色の枯れ木の、細い枝が、冷たい風になびく。
あった時から色白だった祐輝の肌。
あの時から蝕まれていたのだ、と苦笑しながら言う。