君色キャンバス
「紗波!」
見れば、靴箱側の中庭に繋がる扉から、小百合が顔を覗かせていた。
今 上靴に履き替えたらしいのに、わざわざ下靴に履き替えて紗波に近寄る。
「紗波!昨日、なんで…」
「迷惑だから」
小百合が言おうとする言葉を遮って、紗波は鉛筆を動かしながら言う。
小百合は腰に両手を当てた。
「あのねぇ…迷惑じゃない、むしろ大歓迎って言ってるじゃない」
紗波が鉛筆の踊りを止め、目の前のノートを睨んだまま囁く。
「迷惑になる」
「違うって…」
「だから良い」
紗波は小百合に教室に行くよう促すと、再び絵を描いた。
時を忘れて、モノトーンの世界を描いていく。
一限目のチャイムが鳴っても、帰ろうとはせずに。
あの花、あの噴水、あの校舎、あの草へと対象を変えて、描いていく。
雲は白く、時折お日様が顔を覗かせる。
長休みに小百合が呆れた様子でやってきたが、この後の授業も出ないと伝え、また描画に熱中した。
十二時の鐘の音が鳴る。
紗波は、画鋲を落としてから上靴に履き替えると、美術室に向かった。