君色キャンバス
祐輝は、無表情で自分を見つめる紗波を、苦笑気味に見る。
「…つか、よく登ってこれたな。ここ、三階だぜ」
「…木登りは、得意だから」
紗波を見つめる茶の瞳は、優しさに満ち溢れていた。
白いベッドに寝転んだ黒髪の祐輝は、今にも駆け出して、バイクに乗って紗波を誘おうとしているようだ。
右手に力が入り、紗波は下唇を噛む。
闇色のキャンバスの中で彷徨っていた紗波が、青白い光に導かれてついた場所。
それは、優しさが溢れ出す病室。
「早寝すべきなんだろうけど、眠れなくって」
「…うん」
心の中に渦巻く疑問を、紗波は少しずつ漏らし始める。
何分か、病院や、小百合や亮人の事を話題に出し、話しながら、過ごした。
「…多分、俺と久岡、留年すると思うぜ。毎日サボってんもんなー。…久岡となら良いけど」
「…うん…流岡となら、良い」
それは、紗波にとっての__小さな幸せの、時間だった。
闇夜、それを照らす無数の星の欠片と、暖かな月、そして、笑顔の祐輝。
(…なん、で…)
紗波が祐輝に抱く疑問は更に大きくなって、膨らんでいくばかりだ。
そんな紗波の思考を遮るように、唐突に、祐輝が窓の外を指差した。
「あっ、久岡、見ろよ!」
その方に視線を向けると、一筋の流れ星が、空を横切ったのが、紗波の瞳には見えた。
「すっげえ綺麗、だな。夢が叶うように願っとかねえと」
ふと紗波は、頭にかすめた疑問を、祐輝に投げかけた。
「…ねぇ、流岡」
「ん?なに?」
「…どうして、流岡は不良になったの?」
そう言うと、ふっと何かを思い出したかのような素ぶりを、祐輝は見せた。