君色キャンバス
静かに流れる、落ち着いた空気。
「俺、最近 気づいたんだ。知りてえ?」
いたずらっ子のように笑う祐輝に、紗波はゆっくりと頷いた。
空気が、金剛石の粉が撒き散らされたように煌めく。
「それは__久岡が、俺の側に、居てくれるからだよ」
紗波が、涙に濡れた顔を上げる。
幾つもの水溜りを床に作り、それでも、頬を伝う涙は止まらない。
言葉の意味が理解できなかった。
「…?」
祐輝は目をつぶり、夢でも見るような温和な表情で語る。
「不幸の中でも、小さな幸せを感じた時…人は、心から笑えるんだ。…きっと」
涙が視界にモヤをかける__何かが頬に触れた。
目を開ければ、それは、暖かい、祐輝の右手だった。
「久岡に出会うまで、両親が離婚してから、本気で笑ったことはなかった。荒れた毎日だった。それを久岡が変えてくれた」
儚げに笑う、祐輝。
その笑顔は、紗波にとってなによりも、キレイだと感じた。
「俺は、久岡が側に居てくれるだけで幸せだと思える。だから、笑える__」
頬を伝う涙をぬぐい、祐輝は明るい、はにかんだような笑顔で紗波の右手を握る。
「…久岡は、幼い頃からずっと不幸の中にいた。だから、今、小さな幸せを感じれば…心から笑えるはずだろ?」
祐輝は微笑みを絶やさず、紗波に笑顔を向ける。
「この言葉が、久岡の小さな幸せになる事を願うよ。…ま、俺に言われても幸せにはなんねえか」
白かった顔色が、赤くなる。
紗波の手を握る左手が、暖かくなってい
く。
祐輝は月夜の光りに照らされ、星々に見守られながら__紗波に言った。
「…俺は、久岡が好きだ」
時が止まる。
一瞬のような永遠と、永遠のような一秒が過ぎ去っていく。
その時間はけして心地の悪いものではない。
紗波は椅子から立ち上がると、祐輝の顔の上に覆いかぶさり__そっとキスを交わした。
紗波の心のキャンバスは、明るく眩しく
何よりも優しい、祐輝の色に染まった。