君色キャンバス
紗波は若干の不信をこの男子に抱く。
椅子に座って絵の具やらを片付ける時も、男子から目を離さなかった。
男子がボソッと呟いた。
「…この絵__」
紗波がピタリと動きを止めて、耳を澄ませた。
「面白くねえ絵だな」
面白くない絵。
それの意味が、紗波にはよく解らなかった。
初めて、言われた言葉だった。
「…どういう意味」
紗波が珍しく聞き返すと、男子はこっち側をチラリと見る。
「あ、これ、お前の絵?」
男子が光る月の中心を指差した。
「…違う」
なぜ、違うと言ったのかは、紗波にしか解らないだろう。
「…そうか、良かった」
男子が肩を竦め、その絵をもう一度マジマジと見つめる。
「いや、上手いのは上手いんだけどさ…」
…ビクッ…
紗波の身体がホンのわずか揺れた。
少し手が震えているのに男子は気づかない。
「何つ〜か、面白くない…ま、マジで簡単に言えば、下手?ってとこか?ちょっと違うけど。あっ、これ秘密な?」
紗波の震えが止まる。
男子は紗波に向かって、明るい太陽のように笑いかけた。
窓からは、太陽色の日光が注ぎ込む。
その瞬間、五限目の授業が終了した事を告げる鐘が、校舎中に響き渡った。
「…あ〜、鳴っちまった。ま、良いけど」
茶色い頭をぼりぼりとかいてから、男子は紗波の方を見た。
「お前って喋らねえよなぁ…名前は?」
「…あなたから、言って」
紗波は、この男子の名前を、早く知りたかった。
見る度に、無性に笑顔が描きたくなる、この男子の名前を知りたい。
「あ、マジだな…人に名前聞く時は、自分からだっけ。俺の名前は」
その時。