君色キャンバス
__ガラガラ__
美術室のドアが開けられた。
扉の方を見る紗波と男子。
そこに居たのは、小百合だ。
小百合が紗波を一目してから、目の前の男子を見て、みるみる顔を赤くした。
「…流岡…???なんで、ここに居るの…?この娘になにかしたんじゃ…!」
「は?こいつに?なんにもしてねえよ。つか、お前 誰だよ」
男子が小百合を小馬鹿にしたように、やれやれと手を振る。
「流岡、その娘になにかして…!!!」
「だから、してねえって」
流岡と言う男子は、紗波の方を見ると、自分の名前を名乗った。
「俺は流岡 祐輝(ナガオカ ユウキ)。お前は?」
久岡 紗波、と答えようとする声を、小百合が遮った。
「そいつは学校一の不良だって!目ぇつけられるよ!」
小百合が紗波の腕を引っ張って、あっという間に美術室を出る。
ドタドタとした廊下を走る音が、美術室から離れて行った。
美術室には、流岡 祐輝という男子が一人、ポツンと残される。
祐輝がはぁ、とため息をついてから、憎々しげに呟く。
「…チッ、どいつもこいつも…」
そして、部屋の中央に置かれたキャンバスに目をやった。
美しく舞う桜は、何も訴えかけてはこないのだった。
ふっと何かに気づいたように、片眉をあげてその絵を見る。
「…あの絵、描いたのもしかして、あいつ…?」
月を横目で見ると、そのタッチも色使いも、全てが似ている。
「…あいつ、なんて名前だろ?」
その時、キーンコーンカーンコーン、と六限目 始まりの鐘が鳴る。
祐輝はのそのそと美術室を出ると、ポケットに手を突っ込んで、どこかへ行った。
遠くで、「流岡!またサボりか!」と言う声、大きな足音がしたのは、あながち空耳ではないだろう。