君色キャンバス
小百合が教室の前まで、紗波を連れて行くと、息を整えながらその整った顔を見つめた。
「紗波っ…あいつに…関わっちゃ…駄目…だよ…」
「なんで」
息一つ乱れていない紗波に、小百合はただただ、感嘆の息を漏らすばかりだ。
「あいつ…流岡はね…学校一の問題児って噂なのよ…」
「…問題児」
眉を顰める紗波を見て、小百合は少し驚く。
なぜ、こんなにも、紗波が祐輝に興味を持つのかが、気になった。
(…まさかとは思うけど…紗波が、こ、こ、恋…してたり…?)
そこまで考えてから、ブンブンと首を振って、深いため息をついた。
(…ないないないないない。…疲れてるのかな…恋をしてくれたなら、喜ぶ…のに)
丁度その時、六限目が始まるのを知らせようと、鐘が鳴り響いた。
「…あっ、六限目が始まる…紗波、六限目は受けなよ」
小百合は紗波に有無を言わせず、教室に引っ張り込んだ。
中にはまだ教師は居ない。
小百合を除いたクラスメイトの目__六十本の視線が、紗波に向けられる。
その視線の意味が解らないかのように、紗波は無表情で席に座る。
教室の机の所々から、チッという舌打ちが聞こえる。
六限目の授業である世界史の教師が、教室に入ってくるが、紗波は気にせずに、国語のノートに黒線を引いた。