君色キャンバス



「なんだ、久岡。五限目までサボって、六限目から受けるのか?」



世界史の教師が苦笑気味に言う。



紗波はその言葉が聞こえているのかどうか、ノートから目も離さなかった。



「久岡〜!生きてるか〜?」



どこかからクスクスという笑い声が漏れた。



教師はヤレヤレと呟くと、紗波を放って授業を進める。



小百合がノートを写していると、何かが背中に当たった。



(…ん?)



背中に当たったそれを、振り向かずに手にとって眺め、凍りついた。



__紗波の悪口の書かれた、回し手紙。



開けば、その手紙には、様々な汚く醜い言葉が描かれている。



『久岡マジウザくない?』



『ウザいよね〜!』



『春川に媚びてるつもりかよ?』



『いっつも無表情でキモくね?』



『解る解る!気持ち悪すぎ!』



『天才ぶってるよな〜、天才は何しても許されんのかよ』



そして、紗波と仲の良い自分への貶し言葉も、そこに載っていた。



『久岡もキモいけどさ、河下の方がウザいだろ』



『腰巾着って感じね』



『その表現ピッタリだな。腰巾着』



『可愛子ぶってるけど、全く可愛くないよね?久岡の方が顔はマシ』



ドクン、と心臓の鼓動が高鳴った。



クスクスと広がる笑い声を右に流しながら、何度も読み返す。



紗波への『死ね』『消えろ』。



小百合への『ウザい』『腰巾着』。



紗波はその笑い声に気づかず、一心にノートに絵を描いている。



堪えきれず、小百合はバッと立ち上がると、全員の目が自分に注ぎ込まれているのに関わらず、教室の後ろのゴミ箱に捨てた。



舌打ちが聞こえたが、小百合は澄まして席につき、また、ノートを取る。



(紗波を守るのは…私。私が傷ついても意味ないんだから)



昔の事を思い出した。



あれは、小学四年生、まだ、紗波に感情があった頃の話。



< 33 / 274 >

この作品をシェア

pagetop