君色キャンバス
紗波は、小百合の一つ前の席。
椅子に後ろ向きに跨って、小百合に話しかけた。
「ねぇ小百合!ドッジボール面白かったよ!紗波がボールを取ってね…」
太陽にも負けないような笑みを浮かべている紗波を見て、元気を貰ったのを覚えている。
確かあの時、紗波に笑顔を貰った。
「…?どうしたの、紗波?」
__紗波の顔が強張った事に気づいた。
「…小百合、またイジメられ…」
「はーい皆!国語の準備をしてね〜!」
担任の女の先生が入ってきて、話をはぐらかすために、準備をするように紗波に促した。
「ほら、準備しないと怒られるよ…」
そして、授業時間の最中。
小百合の目に、紗波が何かを受け取っているのが見えた。
紗波が首を傾げながら、その何かを開いていく。
「ごんの気持ちが解る人〜!!」
教室に手が挙がっていく。
紗波は「はい!」と返事をして、真っ直ぐに手を伸ばしていた。
__いつも、なら。
凍ったように動かない。
やがて、ゆっくりと立ち上がった。
「紗波…?」
八十の目が、紗波を驚いたように見つめる。
紗波は後ろまで歩いていくと、くしゃくしゃに丸めた紙を捨てていた。
次の日から、イジメはなくなった。
クラスメイト達が、謝ってくる。
小百合が悟った。
小百合が礼を言うと、
「え?私 知らないよ」
と、照れ隠しに向こうを向く紗波。
紗波は忘れているだろうが、小百合にとっては大切な思い出だった。
あの頃は、自分を守ってくれた紗波に、「ありがとう」と感謝の言葉を言った。
あの時は守ってもらった。
だから今度は自分が。
小百合はそう思って、チラリと紗波の方を見た。
授業中の騒ぎを気にせず、一心不乱にノートに濃淡の絵を描いている。