君色キャンバス
赤色
放課後、紗波が廊下を歩いて行く。
向かうのは、美術室だ。
西側にある面積の広い大きな窓から差し込む日は、赤。
空に浮かぶ雲の側面は、淡い赤色。
西の夕日が沈む向こうに目をやれば、真っ赤な雲の海だ。
紗波は、この夕日の絵を描こうと決めてから、美術室の扉に手をかけた。
(…開かない)
いくら力を入れても、なぜか開かない。
扉にある曇りガラスから中を覗くと、なにかぼんやりと黒い影が見える。
トン、トン、トン。
三回、その扉を右手でノックする。
その黒い__墨色の影が、だんだんとこちらに近づいてきて、扉の前で止まった。
「どなたですか」
低い、優しい、聞き覚えのある声が、紗波に向かって扉越しに問いかけた。
「…久岡 紗波」
そう答えると、黒い影の胸の部分が腕組みをしているような形に変化した。
「どなたです」
「久岡 紗波」
しつこく聞いてくるその影にも、イラつきなどは無い。
何度も何度も、同じような会話を続け、とうとう中の黒い人影の気が続かなくなったのか、呆れたように言った。
「…あのさぁ、お前 誰だよ」
「久岡 紗波」
それ以外に答えない紗波にとうとう堪忍袋の尾が切れたのか、瞬間的にカチッと音がして、扉が勢い良く開く。
「お前、いい加減に…!!!…って、お前…」
その人物が、上から紗波を見下ろした。
その影の持ち主は、流岡 祐輝だ。
相変わらずの、紗波よりも白い肌が、夕陽に照らされて赤く染まっている。