君色キャンバス
群青色
シュウシュウと、筆がキャンバスを撫でる音がして、祐輝は目を覚ました。
パイプ椅子にもたれかかって、いつの間にか寝ていたようだ。
(…ここどこだ?)
ぼんやりと霞む薄暗い視界を見回しながら、目の前に浮かぶ白い四角い物に気づく。
右手で目をゴシゴシと擦ると、ぼやけた視界がだんだんはっきりしてくる。
石膏の像やら、レプリカの像やら、鮮やかなキャンバスやらが置かれていて、美術室という事を理解した。
嫌に暗く、黄色い光が差し込む。
目の前に居るのは、一人の女子。
(…久岡か)
黒髪をギュッと後ろで縛っていて、整った人形のような顔立ちの紗波が、キャンバスを睨みつけるように見ている。
その目つきに一瞬 恐怖した。
しかし、そんな事を思っては失礼だと、気を切り替える。
そして、紗波に向かって話しかけた。
「…俺、寝てた?」
「寝てた」
冷たくて、ぶっきらぼうな声が返ってくるが、こちらを見ている様子は感じられない。
「いつから?うわ、すっげえ記憶 無いんだけど」
「…五時半くらいから」
「五時半?今 なん__」
祐輝は、美術室の壁にかけられている、シンプルな白い時計の短針を見て、絶句した。
__十時だ。
嫌に美術室が薄暗いのも解る。
外は夜なのだ。
「わ、なんで俺こんな時間まで!?つか久岡、帰らねえの!?」
「帰らない」
すっ、と紗波がゆっくりと線を引いた。
「…できた」
キャンバス前の椅子から立つのが、暗闇の中、見えた。
月がかなり明るい。