君色キャンバス
「…できた、って…」
祐輝がのっそりと立ち上がって、キャンバスの向こう側まで歩を進める。
紗波は窓の外を覗いて、月をジッと眺めていた。
その美しい横顔に祐輝の胸は一瞬、ドキッと高まるが、首を振って歩く。
「…あ、あのさ…お前、どこで寝るつもり?」
祐輝は、紗波の答えを想像していない。
「…ここ」
「はぁ?」
祐輝が、あからさまに怪訝な表情をして歩みを止めた。
(…ここ、って、美術室?)
片眉を下げる。
「なぁ、美術室に泊まるつもりか?」
コク、と紗波が月を見たまま、頷いた。
祐輝が信じられないような、そんな顔をする。
「マジか」
「うん」
いとも普通の事のように頷いた紗波を見て、呆れとも楽しみとも取れる笑顔を浮かべた。
「ははっ…そんなに家 嫌か?」
「…嫌」
すぅ、と声が低く、小さくなったのに気づいた。
聞いてはいけない事を、聞いてしまった気がする。
「あっ、ごめん…気分悪くした?」
「…良いから」
紗波が窓から離れ、隅の方に片付けられた机の上に、パレットを置いた。
パレットの上には平たい湖が、幾つも作られている。
月以外の光が無い美術室の中で、裏側の白いキャンバスは異質だろう。
祐輝がキャンバスの絵を見た。
キャンバスの中に写るのは、眠っていた祐輝だ。