君色キャンバス
コツン…コツン…コツン…
まだ、足音は聞こえている。
それどころか、だんだんと近付いて来ているように感じられる。
「ちょ、ゆ、ゆうれ…」
「…幽霊は…居ない」
紗波は尚も耳を澄ましてから、顔をあげた。
「…警備員」
「警備員…!?…ふ、なんだ、警備員かよ、ビビった…」
祐輝がホッと胸を撫で下ろした。
そして、自分の言動に気づく。
「…あっ、ゆ、幽霊が怖いとかそういうんじゃねえからな?その、久岡が怖がるかなー、と思って…」
「…静かに…隠れる…から…」
紗波が机に向かって、シュッシュッと上靴をすりながら歩く。
祐輝は、訳が解っていない様子だ。
「…は?どこに隠れんの?」
「…良いから」
紗波が机の前で止まって、祐輝の茶色い瞳を見つめた。
その尖った黒曜石のような眼差しに、圧倒されそうになる。
コツン…コツン…
足音はすぐそこだ。
「…はぁ」
祐輝が小走りに机に近寄った。
「どう隠れるんだ?」
「…こう」
紗波は机の下に置いている大きな暗幕を手にとった。
立ったまま、それを広げる。
像を、積もる埃から守るための物だ。
その刹那、ガラガラ、と隣の音楽室が開く音がした。