君色キャンバス
廊下を歩きながら、小百合は隣を歩く紗波に言う。
紗波は、煉瓦色の廊下の床を向いて、その言葉を聞き流している。
「…だから、流岡に近づいちゃ駄目だって…忘れたかもしれないけど、中学でさ、問題起こしてたでしょ?一緒の学年だったじゃん」
「覚えてない」
「校長の前で酒 飲んで、挙句にそれを噴き出して酒まみれにしたりさ…覚えてない?」
「知らない」
返事にならない返事をして、紗波は廊下の床にある亀裂を目で追った。
くねくねと曲がる亀裂は、途中で途切れたり、大きく別れたりしている。
「もぅ…同じ中学だったじゃん。『ミスチーフ・デビル』って…」
『ミスチーフ・デビル』とは、日本語で『悪戯悪魔』という訳になる。
紗波は、『悪戯悪魔』に対して、あまり興味を持っていない。
小百合はそんな紗波の様子をみて、はぁ、とため息をつき、話題を変えた。
「今日、山道先生の誕生日なんだって」
「あっそ」
その顔に、表情は表れない。
小百合は胸をチクンと針で突かれた様な気分になりながら、そのことを笑って聞かせた。