君色キャンバス
黄色
「…なみ。紗波ってば」
「…う…」
紗波がゆっくりと目を開き、目の前五センチにある顔を凝視した。
「やっと起きた…」
目の前の少女は、紗波を呆れたように見る。
「また、美術室で寝たの?」
「…そう」
紗波の、なんにも感情の入っていない、無機質な声。
「そう、じゃない」
少女が立ち上がって、紗波を上から見下ろす。
「いくら家に帰りたくないからって、美術室に寝泊まるのは駄目。風邪引くかもしれないじゃない」
「…大丈夫」
紗波が起き上がり、椅子に掴まって立ち上がると、スカートや上着を、手ではたいた。
「…家に、帰りたくないから」
時計を見れば、もう七時四十五分だ。
何時間寝たのだろうか。
少女が額に手を当てる。
「確かに、帰りたくないだろうけど…」
「…もう二度と…帰りたくない」
「なら、私に頼ってよ…幼馴染でしょ?」
少女が腕を組む。
紗波は少女の方を見ないまま、ぶっきらぼうに言い放った。
「…あまり私に構わないで、小百合」
小百合__河下 小百合(カワシモ サユリ)はふぅ、とため息をつくと、話題を逸らそうと美術室の中を見渡した。
「…この月、紗波が描いたんだよね」
「そう」
「下手な絵だね」
小百合は少し悲しい顔をして、紗波のその美しい絵を、貶した。
コクン、と頷く。
紗波は文句を言うことも無く、何の感情も、顔に表さなかった。