君色キャンバス
ピンポーン、と、紗波の家のチャイムを鳴らす。
インターホンから、無機質な紗波の声が聞こえた。
「…誰」
「河下 小百合」
その声は少し刺々しく、気分が悪い事が解る。
プッ、とインターホンが切られた音が耳に入った。
小百合は傘を持ちながら腕を組んで、紗波が出て来るのを待つ。
(ったくあのヘタレ…)
パタパタと足を地面に打ち付けて心の中で、彼氏に対する悪態をついた。
(何が部活なの?彼女と部活どっちが大事なのよ、用意してからメール送んないでよ!そりゃ、もう少しで大会だってのは知ってるけどさぁ…)
雨が小百合の気持ちを代弁するように、一層 強く音を立てる。
苛々しているうちに、紗波が玄関の扉を開けるのが、門の前から見えた。
「紗波…今日、暇?」
紗波が小さく首を縦に振るのを見て、小百合がふぅ、と息を吐く。
「どっか出掛けようよ」
「嫌」
紗波が無表情で切るが、小百合はしつこく言い寄った。
「お願いだよ…今、気分すっごい下がってるんだって…暇なら行こうよ」
「嫌」
小百合は、なんとか紗波を説き伏せ、紗波がもう一度 出て来るのを待った。
ガチャッと扉が開く。
紗波は普段通りの格好で、お洒落でもなく、特に野暮ったくもない。
紗波が提げる鞄の中には、鉛筆とノートが入っている。