君色キャンバス
(…凄い…)
小百合は心の中で、囁いた。
紗波の描いた月は、とても上手く、まるで目の前に実物があるかのように見える。
天才と言われても、おかしくはない。
しかし、小百合は、貶したのだった。
なぜかは、解らない。
小百合は、紗波の唯一の友達とも言える幼馴染。
セミロングの焦げ茶色の髪は、ふわふわとした癖っ毛。
顔は、紗波とは真逆で、とても優しそうで楽しそうな表情。
目は大きく、唇は桜色。
美少女とは言われないが、とても可愛らしい雰囲気を醸し出している。
冷たくキツいオーラを放つ紗波とは対象的な、ひまわりのような女子高生だ。
「…顔、洗ってくる」
独り言とも取れる声で小百合にそう伝え、紗波は髪を結んでいたゴムを外した。
「うん…行ってらっしゃい。八時になったら生徒がいっぱい来るから、それまでに準備しなよ」
返事をする事もなく、紗波はトイレの前にある手洗い場に向かう。
窓からは、夜とは違う、暖かく明るい太陽が差し込んでいる。