君色キャンバス
「…あのなぁ?道 教えろって言ってるだけだろ?ついでに奢ってやろうかって言ってんだよ」
紗波の震えが止まる。
「い、良いです…」
小百合の顔から、血の気が引いていくのを見て、男三人はほくそ笑んだ。
「さ、案内してくれよ…良いんだろ?」
男の一人が、小百合の、傘を持つ右手首をグッと掴んで笑った。
黄色い傘が揺れ、骨の先から、透明な雨水がポタポタと零れ落ちる。
男三人が立ち憚る隙間から、二人組のヤンキーや、デートをするカップルなどが、駅の中からこっちに向かって来るのが見えた。
しかし__見えていないのか、気づいていないのか、助けては、くれない。
紗波は、三人の男を睨みつける様に、黒曜石が割れたような瞳で眺めている。
小百合が無理矢理 立たされ、紗波が震えるのを見て、男二人は笑う。
その時、その瞬間に、紗波と小百合の耳に、聞き覚えのある声がした。
「…よぉ紗波、遅れてごめんな!河下も居るじゃん!…あれ、ナンパされてんの?」
低い、優しい声。
しかし、いつもとは違って、ナンパ男達をからかっている様な口振りだ。
男三人の顔色が青白く変わる。