君色キャンバス



小百合は一人になると、もう一度、まじまじとその絵を見つめた。



光る月を、小さな星達が囲んでいる。



小百合は再び腕組みをして、遠くから、近くから、その絵を見定めするようにあちこちから眺めた。



「…こんな絵描けるの、紗波だけじゃないのかな…」



ちょい、と月の表面を、人差し指でなぞってみた。



絵の具は、乾いている。



小百合はその絵を、紗波が戻ってくるまでずっと眺めていた。



「…どうしたの…?」



「ん?何にもないよ」



もっと見て居たいが、それは憚られて、仕方なく目を離した。



(きっと、これ以上見て居たら…)



「さ、教室に行こう。多分、もう誰か来てるんじゃないかな」



「…そう」



小百合は、美術室の鍵を閉めてから紗波の背を押すと、教室まで運んでいった。



鍵は、後で職員室に返すつもりだ。



美術室に残った月の絵は、何かを訴えかけるような感情は見せず、ただ、静かに立っている。



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