君色キャンバス
ガラガラ、と、どこかの教室を開ける音が聞こえた。
美術室は、角を曲がればすぐそこにある。
閉まった美術室の扉。
紗波は扉に手をかけ、勢いよくガラガラと引いた。
顔だけ教室に入り奥を見れば、棚の上に祐輝の眠っているキャンバスと__棚の側面で、本を片手に持つ起きている祐輝が居た。
絵の具の匂いと風の匂い、床の木の匂いが、交互に香る。
窓が開いているようだ。
祐輝の茶髪が、さらさらと揺れている。
紗波の長い黒髪も。
「…あ、久岡?」
祐輝が表情 豊かな顔を紗波に向け、本を持っていない右手で、小さく手を振った。
「お邪魔してまーす」
「…」
紗波は特に目立った反応をせずに、チラ、と顔を見ただけで他所に目を移す。
頭の禿げかかっている校長の石膏像が乗った、白いタンスに歩み寄る。
一番上の引き出しを開けると、五百色の色鉛筆が収められたカンカン箱が目に入る。
その箱を取り出すと、二段目の引き出しにある落書き帳を手に持った。
「…色鉛筆で描くのか?」
祐輝が本を棚に置いて、紗波に歩み寄りながら、笑っている。