君色キャンバス
「…アジサイが幸福か不幸か?」
祐輝が狼狽えた。
一度もそんな事を考えた事はなかった。
「…現実の真実を描くのは…それを、問いかけるため…」
紗波がアジサイの小さな花弁に触れた。
アジサイの花弁は、紗波の指の形に曲がる。
「アジサイは、不幸か幸福か…」
祐輝が口の中で、その言葉を繰り返す。
「…絵は、夢と現実の世界を行き来して…その真実を見せ、問いかける物」
紗波は、紫陽花の方に視線を移し、花弁に反射する光を眺める。
「アジサイは幸福だという人が居るかもしれない…」
そして、次にアジサイが作る影を、黒曜石の瞳で見つめた。
「不幸だという人が居るかもしれない」
祐輝は、少なからず混乱している。
(アジサイが、不幸か幸福か??)
その答えは、今すぐには解らず、ただ黙って紗波の話を聞く。
「絵は…どう思うかを、考えさせる物。問いかけられない絵は、ただのゴミ」
紗波の瞳に、光は無い。
「…私の絵は、ただのゴミ」
祐輝は、紗波の心で渦巻く暗い何かを垣間 見た気がした。
それが紗波の感情を奪っているのだと、感じた。