君色キャンバス
蜂蜜色
__放課後。
紗波は一度も教室に帰らず、ずっと、アジサイを何枚も描いていた。
何枚も、何枚も、色鉛筆で鮮やかに描かれていくが、そのどれもが、世界観を問いかける事はしなかった。
昼間は瑠璃色だったアジサイが、横から差す夕陽に照らされ、紫がかかる。
昼間のような蒸し蒸しとした気温は流れ、爽やかな風が吹く。
また一枚、美しいアジサイの絵が出来上がり、紗波はそれをジッと眺めた。
光に当たって輝く水。
紫のかかった瑠璃色のアジサイ。
しかし、何かを問いかける事はしない。
「…っ」
落書き帳から破り取ると、そのアジサイを空に移動させた。
彼方此方の宙を舞うと、その絵は裏返って床に落ちた。
紗波がもう一枚、アジサイを描こうと色鉛筆を握る。
遠くから、微かに聞こえる足音。
車が走り抜ける音。
もう、帰るのであろう生徒の、笑い声。
陸上部の掛け声。
シュッ、シュッ、と色鉛筆を動かす音。
様々な音が交差しあって、美術室に響いた。
その音に、耳を澄ませる事はせず、目の前に咲くアジサイを見つめる。
足音が近くなって来て__
ガラガラ、と、背後で扉が開く音がした。