君色キャンバス
祐輝に対しては、紗波は恋愛感情はおろか、何とも思っていない。
ただ__祐輝と会うと、顔が火照り、さっきのように心臓が跳ね上がるのは、前々から気づいていた。
しかし、この衝動の意味がなんなのか、紗波は理解 出来ずに居る。
「…な、なんだ…?鼻が痒い…ヘックション!!」
警備員が何度もくしゃみをし、半ば逃げるように美術室から去った。
紗波は、暗幕から抜け出し、机の下から這い出た。
子猫の小さな身体を抱き上げて、目の前に掲げてみる。
ツヤツヤとした黒い毛並み、光る目。
そして、明るい顔。
子猫が紗波の瞳を見つめる。
紗波も子猫の目を見つめ返した。
紗波は床で、暗幕を被って寝ていた。
子猫は逃げたらしく、美術室にその姿はない。
部屋の真ん中に、一つのキャンバスが置いてある。
小さな小さな黒い子猫が、そのキャンバスの中で、お腹を見せて寝転がっていた。
その子猫にも、感情は写っていない。
夜は過ぎ、東の空が白んでいるのが、廊下の窓から見える。