君色キャンバス
「紗波、おはよ」
七時四十五分を過ぎたところで、小百合が教室に入ってきた。
紗波は一言
「おはよう」
とだけ言って、鉛筆を動かしつづける。
小百合は苦笑して、紗波の机の前に立つと、鞄を持ったまましゃがみ込んだ。
「昨日 転校生 来るって言ったでしょ?転校生はこのクラスに来るんだって!しかも女の子なんだって」
「ふうん」
最初から、転校生に興味を持っていない紗波は、小百合に適当な返事をしながら絵を描く。
次々と、生徒たちが登校してくる。
教室は少しずつ、騒がしくなってきた。
「どんな子だろうね」
小百合は、転校生が来る事を楽しみにしているらしく、昨日と同様、目を輝かせている。
「知らない」
そっけなく言い放つと、紗波はフッと鉛筆を止めて黒板の方を見た。
黒板は白く、チョークの粉が付いていて汚れている。
小百合が、
「じゃ、準備してくる」
と言って、自分の席へと向かった。
紗波は黒板を暫く見つめてから、ノートの端に手をかけ__そのページを破り取った。
そして、また、ノートに美しい濃淡の線を引き始めた。
だんだんと、その姿が現れ始め、やがて、そこに見慣れた少年の顔が写った。
紗波がチラ、と窓の外を見る。
描かれたのは__無表情の祐輝。
紗波は珍しく、一つため息をつき、雲空を見上げた。