君色キャンバス
二限目が終わる鐘が鳴って、小百合が紗波の方を見ると、ノートを手に立ち上がるのが見えた。
小百合が少し目を輝かせ、額に汗をかきながら、紗波に近寄る。
「紗波、何か描きに行くの?」
紗波が小百合の方を見て、小さく、コク、と頷き、筆箱から黄色い鉛筆を取り出した。
「見に行って良い?今日はやる事ないし」
「…うん」
紗波の隣に小百合が並んで、ゆっくりと靴箱まで歩いて行く。
外はジワリと蒸し暑く、すれ違う生徒たちの額や首筋に、水滴が付いている。
小百合も腕を捲り上げて、セミロングの髪を耳にかけた。
「…暑い…もう、夏が来るんだねぇ…」
小百合がそう言いながら紗波の方を見れば、額に汗をかいているものの、髪を耳にかけるような事もせず、無表情で歩いている。
靴箱に入ると、下靴に履き替え、中庭へ続く扉をくぐった。
中庭には、六月の花が咲き乱れている。
アジサイは丸いがくの束を幾つも広げながら、その暑さを体感しているようだった。
水を貰えたのか、中庭の花や草には、水が溜まっていた。
噴水前のベンチに座ると、更にむしむしとした空気が身体にまとわりつき、むわん、と梅雨の生温い香りが漂っている。
そんな中、紗波はノートを広げ、手首につけたゴムを取ると、長い黒髪をギュッと一つに縛り上げた。
髪が生温い風に揺れ、仄かに石鹸の匂いが辺りに香る。