君色キャンバス
「誰がヒステリー女よ!」
小百合がいつもの様子とは豹変し、ギロリと祐輝を睨みつける。
「あ?充分ヒステリーじゃねえかよ」
祐輝が挑発的に笑う。
「ダイオウグソクムシのくせに!」
「ダイオウグソクムシ?なんだよそれ」
祐輝がふん、と鼻を鳴らし、紗波のノートを上から覗き込んだ。
そこには、白い薔薇が、美しく淡々と描かれている。
冷淡にも見えるその薔薇に、感動は湧かない。
「…薔薇 描いてんのか?」
「うん」
紗波はホンの一瞬、祐輝に視線を向けただけで、またノートに黒戦を引き始めた。
祐輝が、ベンチの端に当たる、紗波の隣に座った。
亮斗がベンチの前で、小百合を見つめながらぼう、と突っ立っている。
それを見て小百合が、
「あ、この前はありがとう。その…松島…だっけ?」
「あ、うん、松島。その、河下…俺もベンチに座って良いか?」
小百合が紗波の方に身体を寄せてから、
「ここに座れば?」
と、亮斗に言った。
亮斗の顔がたちまち赤くなり、頬が緩むのが見えて、祐輝は笑い出しそうになるのを必死に堪えた。
なぜ亮斗の顔が赤くなり頬が緩むのか、祐輝は知っているからだ。
笑いに耐え抜いてから、祐輝はもう一度 紗波のノートに目を向けた。
濃淡だけで描かれた薔薇は、誇りや気高さを感じさせない。