君色キャンバス
そして、祐輝は紗波の横顔に視線を移した。
整った、紗波の無表情の横顔に、祐輝が見惚れる。
スッと通った鼻筋、黒曜石の様な鋭く、それでいて光のない瞳。
顔を縁取る、真っ黒な艶々しい前髪と横髪。
その紗波の奥には、言葉を交わしている小百合と亮斗が見える。
ゴク、と祐輝が唾を呑み込んでから、ベンチにもたれかかって空を見上げた。
分厚い雲が殆どを埋めるその空に、紗波の残像が映り込む。
「…はぁ」
祐輝がため息を漏らして、右腕で目を覆い、独り言でも言うかのように紗波に話しかけた。
「なぁ…この前のアジサイの話__ってか、絵の話だっけ?俺、その事 考えたんだけどさ」
横目に紗波を見れば、変わらず鉛筆を動かしてはいるが、一応 話は聞いているらしく、時折 小さく頷くのが見えた。
「…まぁ、考えたのはアジサイの話なんだけどな?アジサイは不幸か幸せか。俺は__多分、なんだけど」
小百合と亮斗は、楽しく話している。
祐輝が、ベンチの隣に咲く瑠璃色のアジサイを眺めながら、言った。
「アジサイは、幸せじゃねえかな」
紗波は、鉛筆を止めて、祐輝の方を向いた。
「…なんで」
隣から聞こえた無愛想な声に、祐輝は優しい微笑みを零した。