君色キャンバス
「…っと、言い方が正確じゃなかった」
祐輝が頭をぽりぽりと掻く。
紗波はジッと、その黒曜石の瞳で、祐輝の横顔を睨みつけている。
その時、鐘の音が中庭に鳴り響き、回りの生徒たちが次々と立ち上がるのが見えた。
小百合と亮斗も立ち上がり、
「紗波、サボるの?」
紗波が小さく「うん」と返事をすると、小百合は少し口角を上げてから、言った。
「紗波、この糞虫に何かされそうになったら、絶対に助けを呼んでね」
「何もしねえよ!」
祐輝が吠える。
亮斗は、アハハと乾いた笑いを漏らしてから、靴箱に向かおうと身体の向きを変えた。
「じゃなー祐輝。俺も授業 受けるわ。サボリ魔のお前じゃねえし」
祐輝は、
「授業なんか受けるのかったりいよ」
と言い、小百合と亮斗が話しながら教室に行くのを眺めた。
小百合は後ろ手を組んで、時折 花開くように笑う。
そんな小百合に見惚れる亮斗の顔も、祐輝はしっかりと目に焼き付けていた。
中庭が二人きりになる。
生徒たちの騒がしい話し声が嘘だったかのように、中庭には沈黙と噴水の水音だけが残った。
「で…うん、正確じゃあなかったんだけどさ」
祐輝が再び話を切り出した。
紗波はただ、祐輝を睨んでいる。