君色キャンバス



「さっきのは、俺がアジサイと久岡の話を聞いて、持った世界観だ」



祐輝が頬を赤く染めて、紗波に言った。



「確かに最初は何も感じなかったんだけどよ…久岡の話を聞いた後からなら、世界観を問いかけられてる気がした。今はその薔薇の絵にも問いかけられてる気がする」



祐輝が紗波の持つノートを覗き込むと、紗波もそのページに目を移した。



白い薔薇が、可憐に咲いている。



それは、感情が無いようにも見える。



「ただ…なんかなー、感動とかそういうのが出来ねえんだよな。久岡って、感情とかぶちまけねえだろ?だからだと思う」



紗波はピクリと身体を動かして、絵の続きを描く事も忘れ、祐輝をぼんやりと見つめている。



さっきのような、鋭く突き刺す様な視線は消えている。



「たまには感情ぶちまけば?…つっても、久岡はやらねえんだろうけど。何で俺が喧嘩するかって言われたら、相手がムカつくから」



祐輝がはは、と自分自身に呆れるように微笑んだ。



陰鬱な空は、そんな祐輝と紗波を見下ろしている。



「一見 自己中に見えるかもしれねえ…いや、自己中か。ま、そのムカつくって感情をぶちまけてるだけ。かなりスッキリするぜ」



紗波は一言も声を発さず、祐輝の言葉だけを一心に聞いている。



「…って、なんか話がズレた。ま、ともかく。久岡の絵を見て、俺は世界観を問いかけられた。だから、久岡の絵はゴミなんかじゃねえよ」



優しく笑ったその笑顔は、暗い空を照らすかのように広がった。



紗波は空を見上げ、打って変わった虚ろな目でムラのある雲を眺めている。



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