君色キャンバス
暫らくは沈黙が続き、紗波は絵を描き始め、祐輝は何気なしに鉛筆の動きをを目で追った。
やがて、ポツンと祐輝の額に何か濡れたものが当たる。
「…ん?」
それは、あっという間に幾つにも増え、噴水の中に波紋を生む。
「…うわ、雨が降ってきた!」
祐輝が叫び、小さなシミを作りつつあるベンチから立ち上がる。
「久岡!校舎に入らねえと…」
そこで、言葉を切る。
紗波は、雨に気づいていないように、ノートに白い薔薇を描いていた。
無表情のまま。
祐輝はこの時、背中に戦慄がほとばしるのを感じた。
「中…入らねえのか?」
「雨なんか…どうでも良いから」
紗波は鉛筆を動かしたまま答えた。
その黒髪に、透き通った雨水が丸い玉を作っている。
「風邪 引くぜ」
「別に良い」
紗波は動く気配を見せず、ただただ、鉛筆をノートの上で踊らせている。
ノートも、雨が当たって、薄い薄い青に染まっていく。
祐輝は無言のまま紗波を見ると、靴箱へと駆け出した。
紗波が一人、外界に拒絶されたように、中庭に残った。
ガサッという音が聞こえる。
バン、という音も。
タッタッタッタッという音が近づいてきて__
突然、紗波の肌に雨水が当たらなくなった。
上を見れば__透明なビニールが見える。
隣を見れば、傘を手に持つ祐輝。