異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。



コトン、と物音が響いて体が強張った。


皇子が戻って……きたの?


急いで袖でゴシゴシと涙を拭ってると、唐突に後ろから抱きしめられた。


(えっ……だ、誰? )


訳がわからずに固まっていると、低い低い声が耳元に届く。


『……どうして』


ライベルト?


彼が……あたしを抱きしめてるの? 一体どうして!?


混乱しそうなあたしの頭は、次の彼の言葉で更にパニックに陥る。


『どうしてあなたは……そうやってひとりで……泣くんですか?』


「……ら、ライベルト……?」


うわ! めちゃくちゃ鼻声。どれだけ鼻や瞼が腫れてるんだろ。普段からブスなのに、めちゃくちゃ見られない顔になってるじゃないの。


彼の腕に更に力が籠り、息苦しくなるほど抱きしめられた。


『不安なら、打ち明けてください。俺なら決してあなたを粗略には扱いません……祖国の寂しさだとて、いつか忘れさせてみせます』


トクン、と勝手に鳴るな、あたしの心臓。

期待なんて、しない。虚しいだけだから。


< 107 / 209 >

この作品をシェア

pagetop