異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
コトン、と物音が響いて体が強張った。
皇子が戻って……きたの?
急いで袖でゴシゴシと涙を拭ってると、唐突に後ろから抱きしめられた。
(えっ……だ、誰? )
訳がわからずに固まっていると、低い低い声が耳元に届く。
『……どうして』
ライベルト?
彼が……あたしを抱きしめてるの? 一体どうして!?
混乱しそうなあたしの頭は、次の彼の言葉で更にパニックに陥る。
『どうしてあなたは……そうやってひとりで……泣くんですか?』
「……ら、ライベルト……?」
うわ! めちゃくちゃ鼻声。どれだけ鼻や瞼が腫れてるんだろ。普段からブスなのに、めちゃくちゃ見られない顔になってるじゃないの。
彼の腕に更に力が籠り、息苦しくなるほど抱きしめられた。
『不安なら、打ち明けてください。俺なら決してあなたを粗略には扱いません……祖国の寂しさだとて、いつか忘れさせてみせます』
トクン、と勝手に鳴るな、あたしの心臓。
期待なんて、しない。虚しいだけだから。