異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
ふと、手首に暖かさを感じた。
持ち上げてみると、あの腕輪が淡く輝いてた。
いくら荷車用とは言え、狭い馬車の中では動きに限界がある。
幾らか斬り結んでいた2人だけど、たぶん実力は互角。物音とかで判別するしかない。
しばらく膠着状態が続いたけど、そんなのがずっと続く訳がない。
……嫌な音が耳に届いた。
そして、続けて鉄錆のような匂いが鼻をつく。
ドクン……と全身が強く脈打った。
……お父さん?
血まみれの父の姿が……暗やみの中に浮かび上がる。
「い……や。やだ……いやあああああぁっ!!」
『ユズ!』
ライベルトの声が、聞こえてすぐに。皇子らしいうめき声が聞こえた。
『おまえがそうまで腕を上げたとはな……その女のためか』
ライベルトはそれに答えず、あたしを抱えてくれた。
『ユズ、大丈夫だ。俺は無事だから……大丈夫だ』
「嫌だ! お父さん……いやああ!!」
泣き叫ぶあたしを、ライベルトは抱きしめひたすら大丈夫と繰り返した。