異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
そんなことはない筈だけど、その腕輪はどこか懐かしい気がした。両手で持ってみれば、触れた場所から流れ込む温かい力。それを感じた僕は、自然と理解した。
これは、“言霊(ことだま)”の秘宝なのだと。
遥か昔、ディアン帝国の片隅で生きた古の民が造った、幻とも言える貴重な宝物だ。
ディアン帝国の創世神話では、まだ何も生まれてなかった頃に一人の乙女が現れ、彼女が持っていた言葉の力で全てを生み出し、この世界が始まったのだという。
“言霊の乙女”“言霊の姫”“言霊の女神”。各国で呼び方に違いはあれど、言葉の力で何かを生み出すという神話の役割は一緒で。
僕も乳母の寝物語にずいぶんとその話を聞かされてきた。
“言霊の姫は、我が国を必ず救ってくださいますよ”
乳母の確信めいたような話し方に、いつしか僕は必ずそのお姫様と会うんだ……って思い込んでた。
(どんな女の子なんだろう? 僕と仲よくしてくれるかな? 一緒に遊んでくれるかな)
どんどん想像が膨らんでいって、楽しみで仕方がない。きっと友達になって一緒に遊ぶんだ、なんて思ってたから。その彼女に繋がるかもしれない道具が手に取れて、そのまま放っておく訳がなかった。