異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
「流石だわ……下町育ちの母親の下品な血は争えないのね」
(えっ!?)
侍女の一人が周りに聞こえないよう、ごくごく小さな声で放った言葉。それはほんの少し離れていても聞き取れない大きさだったろうけれど、皮肉なことに言霊の秘宝はそんな声も漏らさず僕に届けてくれたのだ。
(どういうこと? 下町育ちの母親って。母上は違うのに)
僕たちの生母である母王妃は、曲がりなりにもセイレスティア王国第一の家臣であり、先々代の王弟が臣籍降下して創設した、ガーランテ公爵家出身。しかも現当主の妻――僕たちの祖母に当たる方は、南方にあるアルゼア公国の公女だ。
そんな正統かつ高貴な血筋の母が、下町育ちと貶められるのは我慢ならない。
その時の僕はまだまだ多少特権意識に染まっていたから、侍女の発言に驚くというよりただ腹を立てた。
(侍女長のミルミに言いつけてやろう!)
そんなふうに考えていた僕だけど、そんな思考はすぐに断ち切られた。
「まあ、そんなことを言うものじゃないわよ」
すぐに同僚を咎める別の侍女の声がして、ほら見ろと思う。主君を軽んじるような不敬な発言は慎むべきなんだ。
けど、諌められた侍女はまたとんでもないことを口にした。
「あれだけ王妃様に似てないんですもの。ティオンバルト殿下が愛妾の息子だって、みんな知ってることじゃない! 兄王子様は礼儀正しく気品あるのに、殿下はどれだけ問題児か……やっぱり母親の血が問題なのよ」