異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。



「知ってる? 黒水晶ってね、いちばん強い魔よけの効果があるんだって!
だから、それお兄ちゃんにあげる」


僕は思わず女の子の顔を見た。本当に意味が解ってるのか解ってないのか。彼女は変らずにこにこと明るい笑顔のままだ。


「いいの? これ、とっても珍しくて価値があるものでしょ。お父さんに怒られない?」

「大丈夫だよ。お父さんは“困った人がいたら助けてあげなさい”っていつも言ってるもん。この黒水晶がきっとお兄ちゃんを悪いものから守ってくれるよ」


何の気負いも邪気もなくごくごく自然に発された言葉が、僕の胸を激しく揺さぶった。


見返りを求めずにただ無心の善意で当たり前に手を差しのべる。 そんな人間は今だかつて僕の間近にいなかった。


乳母であり侍女長のミルミでさえ、僕に“世話した結果”という名の期待を見返りとして求めるのに。


ぺた、と女の子が僕の頬に触れる。僕より小さなぷっくりとした手のひらが、とてつもなく可愛らしく感じた。


「お兄ちゃんはあたしのお友達だよ! だから、あたしに必要なひとなの。お兄ちゃんがどんな姿でもあたしのお友達だよ」


“どんな姿でも友達という事実は変わらない”


幼い少女が教えてくれた真理は胸に突き刺さり、僕にショックを与えた。


外見がどうこうよりも、見えない本質を大切にする幼子を。思わず抱きしめていた。

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