異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
「私も見えたな……サラサラの黒髪をしたずいぶんと愛らしい子だった」
ライオネル兄上にまでそんな事を言われて、自然と頬が熱くなったけど。ユズを見たというならば、彼女がどんな状況だったかを垣間見たということ。
「ユズは……ユズは助かったんですか?」
ブランケットを手に握りしめながら、恐る恐る兄上達に訊ねた。情けないことに僕は気を失ってユズがどうなったか感知できなかったから。
「ユズって名前か……カワイイね」
まだニヤニヤ笑いを止めないアレクシス兄上に、僕は思わず声を荒げた。
「アレクシス兄上! ふざけないでください」
「ふざけちゃいねえよ。あの子なら無事だ……お前が与えておいた防御魔法が発動したのが見えたからな。相手はぶっ飛んでたよ」
「ただ、何らかの影響で発動が多少遅れてた。ゆえに、彼女はケガをしたが命に別状はない……おそらく彼女の記憶にはその時あった出来事が別の流れとして上書きされるだろう。ティオン、お前が仕掛けた消去魔法の作用で」
アレクシス兄上の話にライオネル兄上が付け加える。それは、2人が何もかも把握している証しに他ならない。
そして、ライオネル兄上は気の毒そうにこう告げた。
「おそらくだが、彼女もおまえと同じ様に【闇】の侵入を許した。だから、おまえと同じ影響を受けるだろうが……こちらからはもはやどうも出来ない。
ティオンバルト、お前は自分の出来る限りの努力をしろ。本当に大切な人ならば、正々堂々と己の力で手に入れるんだ」
ライオネル兄上のその言葉は、今後の僕を決定付ける貴重なアドバイスとなった。