異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
僕は何度も父と話し合い、最終的に国を挙げての召喚の儀式を執り行えた。
――そして、僕は再びユズと逢えた。
彼女と逢えたあの日から、僕は悪夢を見なくなった。
彼女がそばにいるだけで悪いものが全て清められ、胸に温かさが満ちていく。
もっとも……彼女に直に触れればもっと力を得ることが出来るのだけど。
「ティオン……ったら! もう起きなきゃ。今日から国内視察が始まるんでしょう。即位前の大切な行事だって……っ」
僕の体調を気遣いながらも、王太子としての責務をちゃんと果たせというユズ。痺れを切らしたか、躊躇いがちに背中に触れる気配があったから、僕は素早くその腕を掴んだ。
「おはよう、ユズ。今日も朝から可愛らしいね」
「あ、朝から何言ってんの! は、離しなさいよ」
焦ったユズはいつも早口であれこれ捲し立てる癖がある。すっかりそれに慣れた僕は、クスリと笑って掴んだ手を引っ張ると、彼女を僕の胸に引き寄せた。
「どうせなら、お姫さまからのおはようのキスがあれば起きれるかもしれないな」
顔同士がほんの数センチの距離でそう囁けば、すぐにユズの顔が耳まで染まる。
面白い。
人間の顔はこんなにも素早く色が変わるのか、とユズを見ながら笑った。