異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
……と。
耳たぶにギリギリとした痛みが走った。
「あたたたっ! ユズ、耳引っ張らないで!!」
「マトモな会話が出来ない耳なら要らないでしょ? ちぎっちゃおうか」
ユズは指で耳たぶをつまむと、思いっきり引っ張ってくれた。お陰で涙目になりながら彼女を離すしかなくなる。
まったく……最近のユズは遠慮がないといおうか、容赦ないというか。
「おはよう。やっと目が覚めた?」
ユズがにっこり笑って僕に言うものだから、改めて僕も彼女に挨拶した。
「おはよう、ユズ。ちゃんと起きてるよ。君から与えられるもの全てが僕の喜びだからね。痛みも愛情ゆえだと知ってるから、君からの痛みもさらなる喜びと幸せ「やめいっっ!あたしまで変な趣味に取られるでしょうが!!」
ユズは真っ赤になって今度は僕の頬っぺたをつまんで伸ばす。
キキやミルミなんかの侍女達が微笑ましく……というか生暖かい目で見てるのは気のせいじゃない。
あと3ヶ月で僕は即位をし、このセイレスティア王国第133代国王となる。
……不安は無いと言ったら嘘になる。
だけど。
「いい加減になさい! ティオンバルト殿下、いつまでユズと戯れてらっしゃいますか」
痺れを切らしたか、ライベルトが寝室に入って僕を叱りつけてきた。
「ほら、行くよ! ティオン、ちゃんと起きて」
ユズが改めて僕に手を差しのべてくれる。
その手を取れる僕はきっと、幸せ者だ。
兄上達はもういないけれど、僕には君がいる。
……大丈夫だ。
君が、君たちがいれば僕はきっと限りなく強くなれる。
だから……。
あの時から繋がれた君のこの手は、何があっても離さないから。
ユズ。
僕の、一番大切なひと。
(あの時のきみ/終わり)