異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
黒髪と蒼い瞳を持つ彼の名前はライ。たぶん下働きだと思う。
つぎはぎだらけのシャツとズボンに、炭や土汚れを洗おうともしないから。伸び放題の髪はボサボサだし、無精ヒゲも生えてる。おまけにちょっとかほるからか、下働きの女性の評判はよろしくない。
けど、たまにしか現れなくてもこうして手助けしてくれる。あたしはそれだけで彼がいい人だって決めてた。
「ライ、今日はお昼ご飯食べてくの?」
『……』
寡黙な彼だけど、負けるもんか。
「あのね、今日はあたしパンを焼いてみるの。だから味見してみない?」
『……あんたが?』
なぜか、ライの目が見開かれてあたしをまじまじと見る。むう、なんだ。その“意外過ぎる”って顔は。
「これでもあたし、10年以上家事をしてきたんだから。お料理出来るんだよ! 苦労知らずで育った訳じゃないから」
比較的裕福な家の出身者は、水仕事や料理なんてしない。花嫁修行の意味が強くて、段階を経て侍女見習いになる。
あたしはそんな華やかな人とは違うと言いたかった。