異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。
……うん、揺れてる。
ぐらぐらぐらぐら揺れてる。
……って!
ちょっと待って?
あたしはがばりと跳ね起きた。
『お目覚めかね、お嬢さん』
紅い瞳を見た瞬間、喉から勝手にひ、と悲鳴が漏れた。
……この異様に白い肌と紅い瞳。そして黒いマントは。
「……あなた誰?」
『ほう、泣きも喚きもしないかね。見掛けによらず豪胆なお姫さまだ』
ククク、と喉で笑う。
この揺れ具合と車輪と蹄鉄の音。間違いなく、馬車の中だ。
ライベルトは一体どうしたんだろう?まさか彼もなにかされたんだろうか。
(だけど、みすみす連れ去られてたまるか!)
あたしは近くにある箱を手に取ると、男目掛けて投げた。
「!」
今だ!とその隙に馬車から降りようと幌(ほろ)の布に手を掛けた瞬間、体がビリビリと痺れてよろめく。
『外に出ようとしても無駄だ。君が篭の中の鳥になるよう術を掛けているのだから』
淡々と話す男の黒いマントから、銀色の髪がハラリとこぼれ落ちた。