夢見る君影草
「もうぜってーしてやらねぇって決めたの!!」

「なんでー!? やっぱりセィシェル、わたしのこときらいなの??」

 スズランはどうしてもそこが気になるのだ。実父に見捨てられたと言う思いが強い為か、時折自分は誰にも好かれていないのでは無いかと不安になるのだ。

「きっ、嫌いな訳無いだろっ!? むしろ、、俺がこんなにスズのこと気にしてるのは……スズの事が。その、、あーー!! だからっ」

 裏返ったセィシェルの声に動揺が伝わってくる。何故だかとても安心した。

「……じゃあ手、繋いで?」

「は? 手??」

「うん、スズが眠るまで手繋いでて…」

「お、おう…!」

 伸ばされた手を取り、そっと握るとスズランは安心して瞳を閉じた。

「……ねぇ、セィシェル?」

「うん?」

「……言っても怒らない?」

「怒らねぇよ…!」

「セィシェルって……本当のお兄ちゃんみたい。いつも、、ありがとう…」

 すっかり安心したのかスズランはいつの間にか寝息を立てていた。

「……ふん、馬鹿な奴っ…。俺はお前の事、妹だと思った事なんて一度もねえけど」

 セィシェルはそう小さく呟くと、スズランの頬を掠める様に唇を落とした。そして肩に布団を掛け直すと静かに部屋を後にしたのだった。


 ───それから今まで通りスズランは酒場(バル)の雑用や手伝いをこなしていた。無論店には顔を出していない。
 セィシェルとは相変わらず喧嘩をしたり、ユージーンに悩みを打ち明けたり。まるで本物の親子の様な幸せな月日を過ごした。
 そんな日々、今も昔も〝あの夢〟をみてはその都度複雑な気持ちになる。白い服を来た青年が現れたのはあの日一度切りの夢現の出来事だった所為か、その記憶は霧に包まれたかの様に薄れていった。
 それでもなお、あの庭を眺めに行くのがスズランの日課になっていた。ユージーンやセィシェルの目を盗んで二人が仮眠を取っている間や酒場(バル)が開店するまでの少しの合間、数日に一度はあの場所───王宮の庭に足を運ぶ。
 月日が経っても変わらず進入禁止区域であり、勿論一般民の出入りは禁じられているのは知っていた。だがどうしても行かずにはいられないのだ。最早何かに囚われているのかもしれない、スズランさえそう思案してしまう程だ。

 そうして数年間ほぼ毎日の様にこの美しい庭へと通い続けている。しかし不思議な事に王宮の警備隊や関係者に出くわした事が一度も無い。スズランが足を運ぶ時間帯は偶然にも警備員が不在と言う事なのか?
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