夢見る君影草
 そんな偶然あるだろうか。幼い頃は深く考えていなかったが最近気になってしまう。
 勝手に忍び込んでおきながらこんなに手薄な警備で王宮はどうなっているのか。今ではそんな心配すらしてしまう。


「──ふぅ。少し張り切り過ぎちゃったかな」

 昨日は、午後一番で王国から臨時のおふれが出た。
 長期に渡り隣国に留学していたこの国の王子であるアーサ王子が正式に帰国されたのだとか。それに合わせ、ノルテ地区にて休養を取っていたアーサ王子の姉君 イリア王女も王宮に戻られた。二人の帰国を祝い、急遽国を挙げての祝祭(フェスト)が今日から五日間にわたり開かれるのだ。
 祝祭(フェスト)の影響で人が集まり、酒場(バル)の集客数は通常の倍以上になる。

 スズランは早朝の祝砲があがるよりも早く起き、張り切って店の準備を進めていた。

「お客様いっぱい来るかな? 朝から準備してたからもうくたくた……あ、そうだ!」

 スズランは酒場(バル)が開店するまでの空いた時間、息抜きをしようと〝あの場所〟へと足を運んだ。
 まもなく日没。辺りは既に薄暗くなって来ていたが相変わらずこの王宮の庭には心地の良い風が吹き抜け、小川は西日を反射して煌きながら川岸の花々を引き立てている。

「いつ見ても本当にきれい…」

 その様子を石橋の上から飽きる事なく眺めていた。ある意味、ここへは癒しを求めてやってきているのかもしれない。
 普段から街に出ないスズランは、慣れていない事もあり、あまりに賑やかな人混みが少しだけ苦手だ。
 この国の民は祭りや賑やかな行事を好む。今回の王子と王女の同時帰国といった大きな出来事にも皆、大いに盛り上がりを見せ歓喜で沸き立っている。
 それに対しスズランの心は何処か他人事の様な気持ちがあり、午後一番に行われていた王子と王女が乗った馬車の祝賀行進(パレード)も遠目に流して、一日中酒場(バル)の開店準備や裏庭の片付けをしていた。というかあまり興味がなかったのだ。
 むしろこの国の王族や民に対し、こんなに浮かれていて大丈夫なのだろうかとさえ密かに感じてしまう程だ。何故なら、半年後にはこの国で最も盛り上がりを見せる収穫祭(リコルト・フェスト)が控えている。
 この国において収穫祭(リコルト・フェスト)は特別な祭りだ。一年間でその年一番の収穫率を上げた作物で街中を飾り祝う。もちろん主役の作物は毎年変わり、祭りは十日間にも及ぶ。
 今年はどの作物が選ばれるのだろうか。
 各々の農家は自慢の作物が選ばれるよう丹精を込め育て、競い合って売りに出す。中でも質の良い作物は国外と商品の売買をし、国際間の商業取引をする事も可能となる為だ。
< 12 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop