夢見る君影草
 作物市場は常に活気がある。
 従って収穫祭(リコルト・フェスト)はこの国、シュサイラスア大国にとっての一大行事なのだ。

「なんで王様も街の人もそんなにお祭りが好きなんだろう…? わたしはちょっと気後れしちゃう」

 収穫祭(リコルト・フェスト)を盛大に行うのにはもう一つの理由がある。その日はアーサ王子の生誕日と重なり、誕生祭も兼ねているからだ。今年はそのアーサ王子が帰国したこともあって未だかつて無い程の盛大な祭りになるのだろう。

「お祭りって賑やかでたのしいけど、お祭りが終わった後って少しさみしい……それに、少し怖い」

 そんな事を考えながらスズランはぼんやりと空を見上げた。もうすっかり日が暮れ、空には夜の気配が感じられる。

「そろそろ戻らなきゃ……」

  今年で齢十六になるスズラン。
 ユージーンに頼み込み昨年から夜にも酒場(バル)の店内を手伝わせてもらえる様になった。
 何故かセィシェルだけは頑なに反対していたが、この歳になって何もせずにはいられなかったのだ。店内の接客は慣れてしまえば案外楽しく、やり甲斐を感じている。
 十八になれば成人を迎える。流石に甘えてばかりはいられない。ユージーンやセィシェルに少しでも恩返しがしたい。その為にも自分一人で何でも出来る様にならなくてはいけないのだから、学べる事は何でも学んでおきたいのだ。

 スズランは大きく息を吸い込み、気合を入れて伸びをした。

「よーし。休憩おわり! お客様もたくさん入るし、がんばろっと!」



 ───この直ぐ後。スズランは運命的とも言える出逢いを果たし、その大いなる力に引き込まれていくのだが……


 それはまた、別の物語である。





 夢見る君影草  〜夢の人〜 終.
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