夢見る君影草
まもなく酒場の開店時間だ。
厨房の排気口からは道行く人々の空腹を刺激するであろう良い匂いが漂っている。
スズランは洗濯物を入れた籠を抱え、急いで裏口へと入ろうとした。だが、その瞬間ものすごい突風に煽られ、何枚かの布巾が勢い良く飛ばされた。
「あっ! 布巾…っ」
豪風に煽られ、空中を舞う布巾はバルの裏庭から王宮へと続く森の方へと吸い込まれる様に飛んで行ってしまった。
「どうしよう……。布巾を取りに行くだけならいいかなぁ? でも…」
この森は王宮の敷地内であり、一般民の侵入は許されていない、進入禁止区域だ。
幼い頃、何故かその森に入ろうとしてセィシェルから酷く叱られた事もある。暫く迷った末、それでもスズランは布巾を取りに森の方へと歩き出した。もし王宮の人に見つかったら素直に謝れば良いのだと思い、その森へと足を踏み入ってゆく。
「どうしよう、ないなぁ……どこまで飛んで行っちゃったの?」
森と言ってもバルの裏庭から続く道は意外と綺麗に整備されていた。小さな荷台であれば余裕で通れる程の小道になっている。その道を奥へ奥へと進んで行くと、ひときわ大きな木の根の所に布巾が二、三枚落ちていた。
「あ、あった! よかったぁ、えっと。じゃあ早く戻らないと…」
落ちていた布巾を拾い集めて元来た方へと戻ろうとしたスズランだったが、かすかに水の流れる音が聞こえ足を止めた。
「せせらぎ? もしかして近くに川があるの?」
何故か無性に気になり、せせらぎの音を頼りに足を進めて行くと森の樹々がまばらになり始めた。ついには森を抜け、開けた場所へと出てしまって更に驚く。
「ここは…!?」
美しく流れる小川。小鳥たちが囀り、心地の良い風が吹き抜ける。小川に掛かる小さな可愛らしい石橋。川岸には可憐な花々が河原一面に咲き誇っていた。
更に奥には非常に美しい白亜質の城壁と王宮が堂々と聳え立っている。
それ以外は全てがスズランの夢に出てくる場所と酷似していた。
「───素敵……ここって王宮のお庭、なのかな? でもなんだかここ、わたしの夢とすごく似てる…」
ちょうど時刻は夕暮れ時、夢の様にあの素敵な人が現れるのではないかと心做しか期待してしまう。
スズランは暫くその場所に佇み、夕陽が沈むまでその美しい景色を眺めていた。しかし太陽が完全に沈んてしまうと先程まで心地の良かった風も次第に冷たい風へと変化し、気温も一気に下がってくる。
厨房の排気口からは道行く人々の空腹を刺激するであろう良い匂いが漂っている。
スズランは洗濯物を入れた籠を抱え、急いで裏口へと入ろうとした。だが、その瞬間ものすごい突風に煽られ、何枚かの布巾が勢い良く飛ばされた。
「あっ! 布巾…っ」
豪風に煽られ、空中を舞う布巾はバルの裏庭から王宮へと続く森の方へと吸い込まれる様に飛んで行ってしまった。
「どうしよう……。布巾を取りに行くだけならいいかなぁ? でも…」
この森は王宮の敷地内であり、一般民の侵入は許されていない、進入禁止区域だ。
幼い頃、何故かその森に入ろうとしてセィシェルから酷く叱られた事もある。暫く迷った末、それでもスズランは布巾を取りに森の方へと歩き出した。もし王宮の人に見つかったら素直に謝れば良いのだと思い、その森へと足を踏み入ってゆく。
「どうしよう、ないなぁ……どこまで飛んで行っちゃったの?」
森と言ってもバルの裏庭から続く道は意外と綺麗に整備されていた。小さな荷台であれば余裕で通れる程の小道になっている。その道を奥へ奥へと進んで行くと、ひときわ大きな木の根の所に布巾が二、三枚落ちていた。
「あ、あった! よかったぁ、えっと。じゃあ早く戻らないと…」
落ちていた布巾を拾い集めて元来た方へと戻ろうとしたスズランだったが、かすかに水の流れる音が聞こえ足を止めた。
「せせらぎ? もしかして近くに川があるの?」
何故か無性に気になり、せせらぎの音を頼りに足を進めて行くと森の樹々がまばらになり始めた。ついには森を抜け、開けた場所へと出てしまって更に驚く。
「ここは…!?」
美しく流れる小川。小鳥たちが囀り、心地の良い風が吹き抜ける。小川に掛かる小さな可愛らしい石橋。川岸には可憐な花々が河原一面に咲き誇っていた。
更に奥には非常に美しい白亜質の城壁と王宮が堂々と聳え立っている。
それ以外は全てがスズランの夢に出てくる場所と酷似していた。
「───素敵……ここって王宮のお庭、なのかな? でもなんだかここ、わたしの夢とすごく似てる…」
ちょうど時刻は夕暮れ時、夢の様にあの素敵な人が現れるのではないかと心做しか期待してしまう。
スズランは暫くその場所に佇み、夕陽が沈むまでその美しい景色を眺めていた。しかし太陽が完全に沈んてしまうと先程まで心地の良かった風も次第に冷たい風へと変化し、気温も一気に下がってくる。