夢見る君影草
 セィシェルが家族として心配してくれるのが嬉しかった。しかし、夢に出てくる森と酷似した場所をみつけた事もスズランの心を大いに弾ませていた。

「でもじゃあねーよ! 小さかったから覚えてないかも知れないけど、スズは昔あの場所で危ない目にあってるんだからな!?」

「……危ない目?」

「ああ、変な奴に攫われそうになったんだぞ? 何者かは知らないけど多分……あいつは変態なんだ。しかもロリコンかも」

 セィシェルは何か思い出したかの様に顔を顰めた。

「あいつって誰? 変態? それと、ロリコンってなあに?」

「し、知らないならいいって。でも最近そいつに似た奴を何度か店で見かけたんだ…。いつでもたくさんの女に囲まれていやがる」

 セィシェルの表情がさらに険しくなった。

「それって……駄目な事なの?」

「駄目だろ! ロリコンで女好きの変態だぞ? きっと女なら誰でもいい最っ低野郎に違いない!」

 嫌悪感たっぷりの口調に何と無くその感情が伝わり、スズランも眉根を寄せた。

「ふぅん。よくわかんないけど、誰でもいいなんてわたしもやだな……」

「だろ? 俺だったら一人って決めて、絶対にその相手しか見ない…!」

 ふいにセィシェルと目が合ったのでにこりと微笑むと、また瞳を逸らされてしまった。

「と、とにかく。そいつかもしれない男が店に来てる限り、危ないからスズは絶っ対店に顔出すなよ?」

「うん、わかった!」

「かと言って今日みたいに勝手なことはするな! 頼むから大人しくしてろよな……」

 口調は強くても語尾にセィシェルの優しさを感じて、感謝の気持ちでいっぱいになった。

「はぁい。セィシェル、心配かけてごめんね? 探しに来てくれてありがとう」

「っ…べつに。じゃあ、俺もう店の手伝いに行くからなっ!」

「うん、お仕事頑張ってね」

「っ…お、おう」

 セィシェルが去った後すぐに取り込んだ洗濯物をたたみ、各々を棚にしまった。一息ついたところでいつもユージーンが用意してくれている夕食を済ませる。昨日まではセィシェルと囲んでいた食卓も今日からは一人だ。
 早々に風呂も入ってしまおうと支度をする。湯船に浸かりながら、今日一日の出来事を振り返った。
 これからは何でも一人で出来るようになるのだ、と意気込みながらも、森の奥で偶然見つけた王宮のあの庭の事を考える。
 もう一度、誰にも見つからない様に森へと足を運ぼう。どうしてもあの場所が気になるのだ。

「わたしだけの秘密の場所…。ちょっと見に行くだけならいいよね」

 そっと呟くとスズランは空気を肺いっぱいに吸い込み、一気に全身を湯船に沈めて密かなる思いを馳せた。
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