愛しのパシリくん
「……渡辺…」
ビクンと体が反応したのが、自分でも分かった。
―…伊藤だ。
伊藤が、私以外の女の子の名前を呼んでる…
「あれ?伊藤くんじゃ…」
「奈々、うるさい!!」
奈々を黙らせて、伊藤たちの会話に耳を傾ける私。
伊藤に渡辺と呼ばれる女の子は、可愛いらしい雰囲気で。
―…この子は、伊藤のこと狙ってたりするのかな?
頭の中では、そんなことばかり考えてしまう。
私、こんなにネガティブ思考じゃなかったのに。
伊藤が絡むと、自分が自分じゃなくなっちゃうんだ。
「今日は、お姫様のとこ行かないの?」
可愛い笑顔で、伊藤に問いかける渡辺さん。
…渡辺さんに悪気がないのは分かってる。
―…分かってるのに。
渡辺さんのひとつひとつの言葉が私の胸に、鋭く突き刺さっていくみたい。
「…パシリやめたから。」
そんな渡辺さんの質問にいつもより、かなり低い声で答える伊藤。
やっぱり、本人の口から聞くのは思ってたよりもきついな…
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