愛しのパシリくん
伊藤みたいなシルエットが、月明かりに照らされる。
そこにいたのは、紛れも無く伊藤の姿だった。
「…い、伊藤?何で…」
どうしよう…
予想もしてなかった奇跡に、体が震えて会話が上手く続かない。
「―…成瀬先輩、誕生日おめでとーです。」
伊藤のその言葉に、私の目の前で何枚かの赤い花びらが舞った。
「………っ…」
上手く言葉が出て来ない。
伊藤が私に差し出したのは…真っ赤なバラの花束で。
「…これって…誕生日プレゼントってこと?」
「はい。受け取って下さい。」
震える手で、伊藤から花束を受け取る。
……やばい。
すっごい嬉しい。
バラの花束も嬉しいけど、伊藤が私の誕生日を知っててくれたことがもっと嬉しい。
「…あ……」
―…ありがとうって言わなきゃ。
だけど伊藤の顔を見た途端、出て来た言葉は―…
気持ちとは、真逆の言葉。
「…本当にパシリやめたいの?やめたいなら、こんなことしないでよ…」
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