Holy-Kiss~我が愛しき真夜中の女神達へ~【吸血鬼伝説】
「……そんなことは、自分でやれ。
 ここをなんとか生き延びて。
 敵を倒して。
 俺と一緒に、日本へ帰ろう」

 俺は、そっと微笑んだ。

「大事な者の行く末を、吸血鬼に任せるな。
 ……得体の知れない化け物なんぞに、な」

「残月は、得体の知れない化け物なんかじゃない。
 部下思いで、強く賢い、僕の憧れの軍曹、だよ」

 工藤は、笑った。

「それに、無理だよ、残月……僕は、もう、そんなに長くない。
 わかっているはずだ。
 例え、今すぐ帰れたとしても。
 僕は、日本まで……持たない
 だから、残月……」

「否(いな)」

 俺は、工藤の頼みを断った。

「否、だ工藤。
 そんな取引きには、応じられない。
 『山田』の代わりが欲しければ。
 そこらに山と転がっている、死体から身包みはいで成りすませばいい事だ。
 何も、わざわざ工藤から名前を奪う理由は、ない」

「じゃあ、血は?
 血は、生き血でないと飲めないのだろう?」

 痩せこけて、折れそうな身を半分起こして、工藤は叫ぶ。

 俺は、ため息をつくと、必死な彼を再び仰向けに寝かしつけた。

「『ハジ』が三日前に切れたんだ、工藤」

「『ハジ』?」

 
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