恋唄ーコイウター
Prologueー序章ー
闇夜にぽっかりと浮かぶ、薄桃色の花びらをつけた桜の木。
その桜の花びらが、風に吹かれて優しく闇夜を舞う。
その中に、一人。
セミロングの茶色味がかった髪を揺らして、二十代半ばぐらいだろうか。女性が立っていた。
闇夜に咲く凛とした桜の花びらは。
彼女の髪を、肌を、なめらかに滑り虚空に溶けてゆく。
女はそのアーモンド型の瞳を僅かに伏せた。
どうしてこんなにも、心は揺れているのだろうか。
もう今日で最後だ。
これからは二度と此処へは来ない。
例え何があろうと。
「さよなら、」
最後に一言付け足そうとしたが、結局言葉にはならずに口の中だけで淡く消えていってしまった。
ざわり、と、桜が揺れる。
風に吹かれて、彼女の姿を見送るかのように。
そこに残ったのは、闇夜の中で花びらを散らす桜の木。
そしてそれを淡い光で照らす、少し欠けた月。
――そこにはもう、彼女は居ない。
.
その桜の花びらが、風に吹かれて優しく闇夜を舞う。
その中に、一人。
セミロングの茶色味がかった髪を揺らして、二十代半ばぐらいだろうか。女性が立っていた。
闇夜に咲く凛とした桜の花びらは。
彼女の髪を、肌を、なめらかに滑り虚空に溶けてゆく。
女はそのアーモンド型の瞳を僅かに伏せた。
どうしてこんなにも、心は揺れているのだろうか。
もう今日で最後だ。
これからは二度と此処へは来ない。
例え何があろうと。
「さよなら、」
最後に一言付け足そうとしたが、結局言葉にはならずに口の中だけで淡く消えていってしまった。
ざわり、と、桜が揺れる。
風に吹かれて、彼女の姿を見送るかのように。
そこに残ったのは、闇夜の中で花びらを散らす桜の木。
そしてそれを淡い光で照らす、少し欠けた月。
――そこにはもう、彼女は居ない。
.