虹の架かる橋
動きが止まった私は、脱ぎかけた靴を履こうと右足で一生懸命靴を探す。


だけど、焦っているせいか、なかなか靴が足にあたらない。






「ケイ……。」
マサが私の名前を呼んだ。


その声は小さかったが、居酒屋のうるさい店内の音の中でも、私の耳にはハッキリ聞こえた。


その声で私の名前を呼ぶ……。


私が思い描いていた願望が実際に今、叶った瞬間だった。


過去の思い出のマサではなく、今現在、私の目の前にはマサがいる。


私は右足で靴を探すのを止めた。


「マサ、元気だった?」
それが私の最初にマサに話しかけた一言だった。


きっと目には、涙をいっぱい溜めて居ただろう。


ポロリとこぼれ落ちはしなかったが、目に映るマサが滲んでいた。



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